木の思い出

涼しくなってきたので、久しぶりに散歩兼買い物に出かけた。


緑の多いいつものコース。曲がり角を曲がると、ふと何か違和感がある。
あるべきものがないのだった。
古い木造の2階建ての家と、それに寄り添うように空に伸びていた八重桜の木は跡形もなく、すでに整地されてまっ平らの四角い地面に、なんとかハウスの看板が立っている。


その八重桜は、普通の八重が咲かせるどぎつい赤い花ではなく、山桜ほど白くなく染井吉野よりほのかに薄い微妙なピンク色の花弁を付ける大木だった。
その美しい花弁が八重で咲くので、満開になると木全体が薄ピンクのモコモコとした雲に覆われたように見えた。



何年か前、満開のその木の下に立って口を半開きにして上を見上げていると、買い物帰りだったろうか、おばあさんが近づいてきて、
「桜を見てくださってありがとうございます」
と声をかけてきた。
ちょっとびっくりしてしまった僕は、
「毎年楽しみにしているんですよ」
と慌てて答えたのだった。
「おじいさんが、○○から貰ってきて植えたんです。もう何年も前に亡くなりましたが。それでも毎年こうやって咲いてくれます」
そんな話をしてくれた。



それからは、意識して毎年必ず見るようにしていたのだけれど、今年は母の入院やらワンコの病気やらでうっかり忘れてしまっていた。
たぶん、今年もきれいに咲いたのだろう。でも、僕はその最後の晴れ舞台を見てやることが出来なかった。
そして、おじいさんがどこから苗木を貰ってきたのか、その部分だけどうしても思い出すことができないのだけれど、たぶんもう2度とおばあさんに教えてもらうことはできないのだろう。


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